マニアックな映画レビュー『ダンケルク』(原題: Dunkirk)

in #japanese7 years ago (edited)

9/9公開の『ダンケルク』(原題: Dunkirk) を観てきました。
本記事はそのレビューです。

(ネタバレ無しですが全体像は語るので、観ようと思っている方は読まないほうがいいかと...!!)


『インターステラー』に垣間見えたエロさ

本作は『ダークナイト』『インセプション』『インターステラー』などで有名なクリストファー・ノーラン監督の作品で、楽しみにしていました。

というのも、個人的にノーランは前作『インターステラー』で進化して、その表現にコクが出てきたと思ってるんですね。

具体的に言えば「モノの物理的な動き」の切り取り方が良い意味でエロくなってきていて、例えば宇宙船の動きに合わせてその座席が動く様子だとか、ドッキングのシーンの巨大な回転だとかにそれが顕著にあらわれています。

僕としてはそれまでの作品もおもしろいことはおもしろいけど、ところどころに「うーん...」となるところ (クロスカッティングを無駄に多用するところとか、音楽のうるささでゴリ押ししていくところとか) があったんですが、『インターステラー』にはその欠点を上回る、他にはない「いいな」と思うところがありました。

ノーランは『ダークナイト・ライジング』のころからサイレント映画の映画表現へのこだわりを公言するようになってきていたので、『インターステラー』であらわれていたのはそれだと思ってるんですが、そんな要素を前面に押し出してきたのが本作『ダンケルク』です。


構成と手法が先で、題材はあと

『ダンケルク』は前途した『インターステラー』での物理的なシークエンスのような要素だけで映画全体を構成してみよう、という考えでつくられた映画だと思います。
現に『ダンケルク』はそのような構成で語る題材としてすごくぴったりなのです。

戦争は物理的なシークエンスの連なりで描くことに意味を与えられるし、戦争が題材というだけでなんとなく格式高く捉えられがちだし、「海岸に追い詰められた大量の兵士をいかに脱出させるか」というシンプルかつ1本の映画にするには十分な、ノーランの大好きなパズル的要素もあります。

そして何よりも、そのシチュエーション"だけ"で映画全体を覆ってしまえば、セリフでストーリーを語らなくても映画を動かすことができ、物理的シークエンスを描くことのみに全力を注げるのです。
これはサイレント映画が頭にあるノーランにとって、さぞかし魅力的に映ったことでしょう。

そのようなことから、ノーラン自身も『インターステラー』でのあのエロさを自覚しており、それを前面に出せる題材を探した結果、『ダンケルク』を見つけたのだと考えられます。つまりこの映画は十中八九、構成と手法が先で、題材はあとです。

で、

果たしてそれはうまくいってるのか?

ということなんですが...


あまりに露出度の高い服を着られると、もうエロくない。

正直微妙です。

というか、どうなんだろう。

玄人向けな映画になっているのは間違いなくて、「うまくやったな」という感想はあるんですが、やっぱり構成と手法が先にあるのが見えるので、それに対しての感想しか出てこないんですね。

五七五でうまくまとめた俳句、みたいな感じで、たしかにそれをみて「うまいな」とは思うけど、実際に心から感動するわけではない、みたいな。

『インターステラー』にみられたエロさは、ストーリーを全力で語るわきでちらっと、意識してるのかしてないのかわからないくらいで垣間見えるからエロかったんですけど、今回はそれがメインになってしまっているので、あまりエロさも感じないという...。

かと言って映画にこだわりのない人がこれを観たら、

「ストーリーがないしつまんない」
「ずっと撃ったり爆発したりしてるだけ」
「音がうるさい」

という感想になるだろうし、それはもっともだとも思います。

これは別にわかる人にはわかるとか言ってるわけではなくて、単純に玄人は性感帯が開発されてるんで、違う楽しみ方ができるってだけです。


『マッドマックス 怒りのデス・ロード』に似てる

本作は全体的に『マッドマックス 怒りのデス・ロード』に似てると思いました。

大きなシチュエーション (車でどっか目指す/海岸に兵士が追い詰められている) で映画全体を覆って、セリフでストーリーを語るという無駄を省き、そのシチュエーションの枠のなかで物理的に暴れる、という。

あれもやけに褒めてる人が多かったですが、玄人は実は構成や手法を褒めていて、こだわりのない人はなんか偉そうな人が褒めてるし、ロックでパンクな感じがするから俺も褒めとけ、みたいなそんなところだったんじゃないかと思います。

もちろんほんとに映画まるごといいと思った人もいるんでしょうけど、そうじゃない人が内実を言わずに何か秘めた感じでただ「素晴らしい」とか言うだけだったりすると、それに便乗した適当な個人の評価が集まって適当な世間の評価が出来あがって、それをみた純粋な子が「そういうのがいいと思わないといけないんだ」とか考えちゃったりして被害にあうので、極力やめてほしいですね。


まとめ

僕は構成と手法に関して『ダンケルク』はうまくやったな、という感想です。
それ以上でもそれ以下でもなかったので、ちょっと期待しすぎたかな、でした。

玄人にはいいかもしれませんが、映画にこだわりのない人にはあまりおすすめしないですね。


ではでは!

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