近年の「スマート林業」の動向(1)

in #japanese6 years ago

こんばんは。瀬潟です。しばらく更新が空いてしまいましたが、steemitには飽きていません。安心してください。
 さて、今日は林業の話題を1つご提供します。スマート林業についてです。林業は他産業に比べ、労働条件や労働環境、収益性・生産性の点で劣位な状況にあります。人口減少や中山間地域の過疎化を見据え、農林水産業をさらに発展させていくことが国家的な課題となっています。林業においても、林業の成長産業化が政策課題となっています。その起爆剤とされているのが「スマート林業」です。今回は、本日私が自主研究として研究室のゼミで発表した資料に基づいて、この「スマート林業」について紹介します。

〇政策的背景
 2016年に策定された『日本再興戦略2016-第4次産業革命に向けて-』において、「攻めの農林水産業の展開と輸出力の強化」が重要な政策課題として掲げられた。攻めの農林水産業の展開と輸出力の強化に向けた施策として、「林業の成長産業化」について記述されている。具体的には、(1) 新たな木材需要を創出すること、(2) 原木の安定供給体制を構築することが重点課題となっている。新たな木材需要の創出に関しては、新国立競技場における国産材の積極利用、公共建築物等の木造・木質化の推進、建築材料としてのCLT(Cross Laminated Timber)の普及促進、木質バイオマスの利用促進等を行っていくこととされている。原木の安定供給体制の構築に関しては、森林境界・所有者の明確化、地理空間情報とICT(Information and Communication Technology)の活用による森林情報の把握、路網整備、高性能林業機械の導入、川上・川中・川下を直結する情報共有の取り組み等を推進していくこととされている(1)。
 また、2017年に発表された『まち・ひと・しごと創生総合戦略(2017改訂版)』(2)においても、地方創生に向けた重要な政策パッケージの1つとして、林業の成長産業化が掲げられている。林業の成長産業化と森林資源の適切な管理の両立を図るため、林業経営の集積・集約化の実施、新たな森林管理システムの構築、意欲と能力のある林業経営者と川下との連携、人材の確保及び育成等を図ることが示されている。また、CLTの普及に向けた総合的な施策の推進や木質バイオマスの利用など新たな木材需要の創出等も示されている。
 さらに、林野庁は2018年度予算において、林業成長産業化総合対策における「スマート林業構築推進事業」に約25億円を計上している(3)。 対策のポイントとして、林野庁は「森林施業の効率化・省力化や需要に応じた高度な木材生産等を可能にする『スマート林業』を実現するため、ICTの活用による先進的な取組や、その普及展開を推進」するとしている。具体的な政策目標としては、民有林において一体的なまとまりをもった森林を対象に作成される森林経営計画の作成率を平成32年度に60%にまで高めることとしている(平成26年度は28%)。林野庁によれば、予算計上の背景として、次の2点の課題がある。1点目に、2016年5月の森林法改正を受け、「施業集約化を推進するため、市町村が所有者や境界の情報を林地台帳として2019年4月までに整備する仕組みが創設されたことから、市町村において確実に林地台帳が整備されるよう支援を行うとともに、この台帳情報を活用したスマート林業の実現に向けた取り組みを推進していくことが必要」(林野庁, 2017)があること。2点目に、「戦後造成した人工林が本格的な利用気を迎える中、人工林の有効活用や国産材の競争力強化に向け、国産材の安定供給体制を構築していくためには、近年目覚ましい発展を遂げている地理空間情報やICT等の先端技術を活用した実践的取組や林業機械の開発を促進することにより、意欲と能力のある経営体に施業を集約化し、効率的な森林施業を進めることが必要」(林野庁, 2017)があることだ(4)。
 このように、林業の成長産業化に向けて「儲かる林業」を推進していくことが最近の日本における林業のトレンドとなっている。

〇スマート林業の定義
 スマート林業に関する学術的な研究及び報告は近年多くなされている。
 林野庁は、スマート林業を「森林施業の効率化・省力化や需要に応じた高度な木材生産等を可能にする」林業であると定義している。具体的な取組は下図のようになっている(林野庁・平成30年度予算概算決定の概要より)。
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ICT等の先端技術を、(1) 施業集約化の効率化・省力化、(2) 経営の効率性・生産性の向上、(3) 需給マッチングの円滑化、(4) 森林情報の高度化・共有化に用いることにより「スマート林業」を実現することとなっている。
 また、スマート林業については、東京大学大学院農学生命科学研究科の仁多見俊夫准教授(森林利用学)らによる研究が代表的である。「平成27年度から実施されている農林水産省のプロジェクト、『革新的技術開発・緊急展開事業』『ICTを活用した木材SCM(サプライチェーン・マネジメント)システムの構築』において、東京大学、鹿児島大学、三重大学、住友林業の4グループが、それぞれ連携して活動している地域の特性の異なる地域林業活動においてこのスマート林業を構築すべく実証事業を進めて」(仁多見, 2018)(5) いる。仁多見(2018)はスマート林業を「『森林の育成や利用の計画(森林所有者、地域社会、行政機関との連携)』、『森林施業と生産された木材の管理(現場と事務所での林業従事者間の連携)』、『生産された木材の需要先とのマッチング(林業従事者と製材工場・木質バイオマスプラント等の需要者との連携)』、これら3つのセクションが適切に情報網で連結されシステム化された、いわば情報システム化林業」であるとしている。
 このように、「スマート林業」とは、ICTやIoT等の先端技術を活用することにより、林業においても他産業並みの品質管理やSCMを構築する一連の活動であるといえる。

〇引用文献
(1)内閣府(2016)『日本再興戦略2016-第4次産業革命に向けて』.
(2)内閣府(2017)『まち・ひと・しごと創生総合戦略(2017改訂版)』.
(3)林野庁(2016)「平成30年度林野庁予算概算決定の概要」.
(4)林野庁(2016)「平成30年度林野庁予算概算要求の概要」.
(5)仁多見俊夫(2018)スマート林業とその可能性-森林資源の利用高度化とビジネスの創出-.『山林』, No.1604, p.6-15, 大日本山林会.

ゼミではこの後スマート林業の実践例を紹介しましたが、記事的には少し長くなってしまいそうなのでいったんここらで切りたいと思います。また明日、続きをやっていきたいと思います。お付き合いいただきありがとうございました。