北朝鮮の国家総力戦を大日本帝国から考える。

in #japanese7 years ago

金政権の国家総力戦 2.0と大日本帝国陸軍にみる、権力の完全掌握の難しさ


  • 日成以来の悲願、核開発を着実に進捗
  • 弾道ミサイルを合わせて進捗
  • 飢餓に苦しむ民衆は暴徒化せず
  • クーデターの芽を事前粛清し、軍部を掌握
  • 国連はじめ、日米韓は北の核武装の阻止失敗。

これらの成功は政権の国体護持*1 を確かなものにする。ここまで成し遂げた金正恩は独裁者として、かなり有能に思える。内政も外交も同時にこなし、技術開発も同時にこなすのは並大抵ではない。クーデターや民衆の暴動は、簡単に起こる。そもそもアメリカや日本は、ほっといても勝手に政権が倒れると思っていた節すらある。

また、北朝鮮のプロジェクトマネジメントは エーリヒ・ルーデンドルフが唱えた国家総力戦を、第二次世界大戦における大日本帝国のそれと、キューバ革命と東西冷戦を咀嚼して、金政権は独自に実装した。現代における国家総力戦2.0だろう。

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そもそも国家総力戦とは、有り体に言えば リソースの最適化に他ならない。

大日本帝国では、金属の供出や配給による食料制限、そして徴兵によってそれらのリソースをコントロールした。ここまでは良いが、選択と集中を誤った。海軍は大艦巨砲主義に走り、陸軍は特攻兵器に走った。技術選択のミスと、精神論が未曾有の結果を招いてしまった。
これらは天皇制でありながら、天皇は国家の主権を議会政治に預けたつもりになっていた。統帥権によって関東軍を中心とした陸軍は、内閣と議会から超越した存在として君臨し、絶大な権力を得た。
この権力は怪物となり、中国大陸とアジアを席巻した。その権力は近衛内閣もコントロールできず、当時の陸軍大臣だった東條英機を首相にするしか抑えるすべがなかったと言われている。
戦前、日本の総力戦研究所は必敗と分析し、海軍の山本五十六は奇襲後早期講和が絶対としていた。ここまで分析し、わかっていても、戦争は終わることはなかった。しかし、東条内閣も陸軍大臣阿南惟幾も、そして陸軍首脳そのものも、戦争の陸軍というドラゴンを乗りこなすことはできなかった。
それを成したのは、違憲に出てまで天皇に聖断を煽った鈴木貫太郎であった。

金政権はどうだろう。
暗殺などの話もちらほらでるが、彼は軍部を掌握していると言われている。彼の総力戦におけるスキームは、第2次世界大戦のそれと近い。だが、彼には大日本帝国の行く末と、キューバ革命、東西冷戦の歴史を知っている。
そこで導かれたのが、国民が飢えたとしても全てのリソースを核開発に注力し、相互確証破壊*2 に基づく世界からの独立であったのだろう。選択と集中である。
軍部を抑えるのがいかに難しいかは、大日本帝国のそれが示しているが、金政権は三代に渡って独裁者として党委員会を掌握することで、日帝のようなチグハグさを解消した。議会はあるが、議会は積極的に金正恩の指導を受けるし、金正恩は天皇のようにお言葉をもったいぶることはない。もちろん、陸軍がお気持ちを勝手に解釈して首脳を暗殺したり、勝手にミサイルを打とうと考える青年将校がでることもない。
これは、意思統制という意味で、部分的に社会主義がうまく機能している例なのかもしれない。*3
北朝鮮における社会主義としての機能と思想コントロールについて、詳しい方がいればコメントが欲しい。

今後どうなり、我々はどうすべきなのか


さて、今後についてだがアメリカが北朝鮮を攻撃する可能性は相変わらず低い。まず、リターンがない。ここまでほっておいたのも、それがベストだったからだ。無理に韓国と融和させることもなかったし、地政学的に見て中露と日韓米の緩衝地帯としてそこにあってくれればよかった。
そしてリスクが高すぎるだろう。米軍は先制で全てのミサイルサイロを潰せばいいという話でもない。
ミサイルはなにもサイロだけではなく、潜水艦があるからだ。SLBMを100%阻止するのはおそらく難しいだろう。
先のキム主席生誕105年での軍事パレードで、北朝鮮は始めてSLBMを示唆した。これによって不確実性とリスクが増大してしまった。

個人的には、国連安保理は体北朝鮮貿易をより強く規制するだろうと考える。全く意味はないが。形だけ示して核武装を黙認することになる。

また、粘り強く核武装解除を交渉するという選択肢は無駄だ。米中露印仏、現状核武装してる国が、やれといわれてハイそうですかとするわけがないのと同じだ。お前らがしねーなら俺もしない。核の傘は一度さしたらみんなが一斉にしめなければならないが、誰も雨には濡れたくない。核武装を達成した時点で、交渉カードは紙になり、北朝鮮は核武装国としてのテーブルについたのだ。

しかしながら北朝鮮も、軍部掌握ができているうちは下手な行動には出ないだろう。お互い何の利益もないのである。利益がないところに戦争は起こらない。戦争とは外交の延長である。*4

日本も核武装すべきという意見には、個人的には賛同しかねる。
核の傘は日米同盟で充分機能していると考える。ただでさえ二枚舌に核のない世界をとか言いながらアメリカの核に守ってもらっているのに自ら核を運用するなど、国際世論が納得しないのみならず、やっていることは北朝鮮と同じになってしまう。立場を守るために核開発するのではなく、同盟を最大限活かすべきだ。

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ただし、経済については国際世論からの煽りがあるだろう。不確実性は経済に現れる。
既に、機関投資家がビットコインを買い入れ、BTC/USDは一時 $5000を超え、日経平均は続落している。

しかし経済にしても、北朝鮮の戦略は今後面白いことになるだろう。
ICBMを発射することで株価が下がり、金とビットコインが騰がるとわかっていてコントロールできるのは金正恩その人である。こんな勝てるマネーゲーム、いくら経済制裁で締め出されても、抜け道はいくらでもありそうだ。しないはずがない。それに、今後は同様の思想や核開発スキーム、そして核そのものを輸出するというポジションも取れる。

北朝鮮に安泰はないが、それにしてもCivilization*5 のように国家運営してここまで来る金政権の選択肢が増えたことは間違いない。逆に我々が取れる選択肢は、レーザーによるミサイル防衛の推進して、SLBMにも対応できるようにするしかない。*6

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注釈


  1. 国体護持。この場合、政権維持が正しい。しかし私は、1人の国家指導者の権威を維持することをこう呼んでいる。
  2. 相互確証破壊を初めて説いたのは石原莞爾の世界最終戦論とするのを何処かで見たが、忘れた。
  3. 私はマルクス主義でも共産主義でも、金政権に何か思い入れがあるわけではない。筆者は個人主義自由民主主義者である。現代の象徴天皇制も好意的かつ畏敬を持っている。
  4. カール・フォン・クラウゼヴィッツ「戦争論」。
  5. 金正恩は不死でも楽勝そう。
  6. 戦術高エネルギーレーザー兵器って、世界がだいぶSFになってきた。