オレがみんなを守るから、誰かオレを守ってくれ-マンガ「武装錬金」に見る、経営者の孤独

in #jp-newbie7 years ago

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「武装錬金」という、そりゃもう大変な名作マンガがありまして、僕はこの作品が大好きです。

特に好きなのが、冒頭に挙げた1シーン。

オレがみんなを守るから 誰かオレを守ってくれ……

なんて寂しいセリフなんでしょう。

ヒーローの孤独

この孤独は、「ヒーローの孤独」です。ヒーローというのは本当にツラい。何がツラいって、孤独であることです。

ヒーローとは、原理的に孤独でなければならないのです。

アンパンマンにもし、同程度の能力を持ち信頼できる仲間がいたら、物語はどうなるのでしょう?

恐らく、彼は軍隊を組織します。自分に近い能力で、信頼できる仲間がいるならばそれが最も合理的な行動です。
次のバイキンマンの出動に備えて、いつでも対応できるように24時間を分割するシフトを敷くでしょう。
また、教育構造も整え、より適切に戦闘能力を向上させるプログラムなども作り上げ、少しもスキのないアンパンマン軍隊が完成するわけです。

しかしこれは物語として全然面白くない。いや、ある意味では面白いのかもしれませんが。少なくとも「ヒーローの物語」という意味では魅力が全て失われています。

ヒーローとは本質的に他の誰も頼ることができない状況下で、唯一頼ることができる人間です。これこそがヒーローの定義でありヒーロー物語を面白い物語たらしめているものです。
したがって、ヒーローは原理的に孤独です。そして、最終防衛ラインをただ一人で担っているから、全責任をたった一人で背負い込まなければなりません。

大体の経営者はこの孤独を抱えている

さて、ヒーローの孤独なのですが、これと全く同じ状態に陥りがちなのが経営者です。
僕は零細企業を経営している関係で経営者の友達が多いのですが、非常に多くの経営者がこのヒーローの孤独に苦しんでいます。

というのも、経営者も”ヒーロー”と一緒なんですよね。
基本的には経営者が一人で、全ての人への責任を負っているわけです。お金を出した出資者にも、給与を支払っている従業員にも、サービスを提供している顧客にも全責任を負います。

全責任を負っているといっても、事業が順調な時はまあいいでしょう。問題なのは、苦境に立った時です。
苦境に立った時、世の中は本当に厳しいです。

  • 売上が下がったことで従業員のモチベーションは下がり
  • 出資者はもっとちゃんと業績を上げろと怒り
  • 顧客は質が下がることへの文句を言います

そして、それらの全責任は経営者が負います。従業員も出資者も顧客もみな、経営者にとって大切な人たちで、裏切れない人たちです。
だからこそ彼らに責められるのが本当にツラい。どの人も大切にしたいから、どの人の要望も血ヘドを吐きながら聞くことになり、どんどんボロボロになっていきます。

このキツさはまさに、

オレがみんなを守るから、誰かオレを守ってくれ

です。自分一人が最終的な責任ラインに立って、皆をどうにか守っていく。なのにこのツラさを誰も理解してくれず、自分のことは誰も守ってくれない。

前述の通り、ヒーローとは、他の誰も頼ることができない状況下で、唯一頼ることができる人間ですし、経営者においてもしかりです。誰も彼を守れない。

だから、寄り添える共同創業者が必要だ

ということで、長々とツラい話を書いてきてしまったのですが、最後に一つだけ希望の話とアドバイスを。

これから経営者になる皆さんは、素晴らしい共同創業者と共に歩まれるのをオススメします。
そして、ここでいう”素晴らしい共同創業者”とは、【気が合う】とか【夢が同じ】とかそういう話ではありません(もちろんそうに越したことはありませんが)

そうではなく、【誰かオレを守ってくれ】と思った時に、あなたを守ってくれる存在です。
じゃあ【誠実で裏切らない】とか【人情にあふれている】とかなのかと言えばそういうことでもありません。

単に、【お金を借りるときに一緒に会社の保証人になってくれる】人です。苦境のときに「僕はやーめた」といえる人は守ってくれる存在とは言えません。
あなたが守る最終責任ラインと同じところに並び、同じように責任を取り、ダメな時は一緒に死ぬ人をつくりましょう。
その人なら、【誰かオレを守ってくれ】を十全に満たしています。あなたも彼を守り、彼もあなたを守る。それが必ず発生する関係というのは本当に素敵です。

何度も言いますが、【信頼できる男だ】とかそういうのは本当に要りません。これは、最終責任ラインに誰が立つかという話です。
あなたが信頼できると思っている男も、最終責任ラインの一歩前に立たせたのでは意味がありません。結局、彼の人生をあなたが後ろから守らなければいけなくなります。
これは能力や人柄とは全く無関係であり、最終責任ラインという立ち位置の特殊性によるものです。

最終責任ラインに立たせる人間を、あなた以外にもう一人増やしましょう。願わくばそれが、気の合う人間であり、信頼できる人間であり、志が同じ人間であればいいですね。

僕は残念ながら、このような共同創業者には恵まれませんでした。というよりも、必要性を理解しておりませんでした。
一緒に働きたい人はたくさんいて、その場その場で楽しく調整しながら関係を築いていけば良いと思っていました。
この発想には正しい部分もありまして、その場その場で調整して人を雇用することはいくらでもできます、しかし、後から最終責任ラインに並んでもらうことはあまりにも難しい。というか、事実上不可能でしょう。

最終責任ラインの前に並ぶ人間はいくらでも増やしたり交換したりできますが、最終責任ラインに共に立つ人は増やせません。

僕は最終責任ラインに一人で立ってしまいましたし、苦しいながらも一人でやっていく覚悟ができました。しかしなるべくならこの苦悩は避けたかったなと思いますし、これから挑戦するあなたは避けてくれればいいなと思います。

あなたを守る誰かが現れること、心よりお祈り申し上げております。


会社やったり村作ったりいつも頑張ってます。フォローお願いします!→@kenhori2

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学生の自分には経営者の視点というのは中々想像できないのでとても参考になりました。
共同創業者は決して気が合って夢が同じじゃなくてもいいってのは衝撃でした!

ありがとうございます!!
そうですね。しゃらくさい夢を共有するよりも、身体をザイルで結んでいるというのが何よりも力を持つ世界です。

初めまして!
初心者ですがフォローさせて頂きました!
よろしくお願いいたします。

はいこちらこそ!!よろしくお願いします〜!!

まずそこまで守ってくれる人はいないものと思って、そういう人が現れたらラッキー、と思っておいた方がいいです。
みんな自分のことで精いっぱいです。
家を借りる時の保証人すら、肉親ですら嫌がりますから。
何とか説得して兄に保証人になってもらいましたが。

そうですねえ。借金の保証人とかは基本的にはそうなのだと思います。
しかし、とりわけ若い時の創業に関しては、一緒に背中を預けて突撃できる相手を見つけることは結構容易だと思っています(僕にもいます。本文中に書いたように、今からはどうにもならないですが)
”創業”という異常な熱狂は、人生をオール・インさせるに足る熱狂です。保証人になるなんて些事、ということが容易に発生します。

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