ウイルスに迫る

in #virus4 years ago

スペイン風邪が亡霊のようによみがえったのは、米アラスカの凍りついたお墓からだった。100年ほど前に世界で猛威をふるった感染症。1997年に掘り出された遺体の肺組織を、米軍病理医が調べ、ウイルスの詳細な遺伝子情報を得る

「感染者の遺体発掘と聞くとSF映画のように感じるかもしれない。でも科学的には理にかなっています」と話すのは、河岡義裕・東大医科研教授。彼らの研究班も、その遺伝子情報をもとにスペイン風邪のウイルスを人工復元した

季節性インフルエンザとは違って、ウイルスが肺の中でも活発に増殖していたことを突き止める。それでもすべての謎が氷解したわけではない。致死性や強毒性の研究はいまも続く。

河岡さんらは季節性インフルのウイルスも合成した。その論文に鋭い関心を寄せたのが米中央情報局(CIA)だ。職員が米国内の勤務先までやって来た。敵対している国の名を挙げ、接近を受けなかったかと根掘り葉掘り。「生物テロを警戒したのでしょう。そんな不審な接触はありませんでしたが」。

それにしてもウイルス研究史の短さは意外である。とかく「コロナを打ち負かす」と叫びがちな昨今だが、スペイン風邪の流行当時は、まだウイルスという存在そのものが科学的に把握できていなかったのだから。

一説に、世界で4千万人を死亡させたスペイン風邪。そしていま犠牲者が100万人に迫ったコロナ。解明されていないことの多さにいまさらながら愕然とする。